所有権と利用権 -2




昔は、「所有すること」が何よりも喜びだった。
 
車、冷蔵庫、クーラー、家・・・とにかく、物がない時期には自分の持ち物を増やすことが最大の目標であった。そして、常に欲しくなる物が目の前にあった。
 
でも、そんな流れは、バブルがはじけ、物が身の回りに溢れるようになって、当の昔に完全に崩れ去ってしまったといえる。いまや、売れるのはブランド物のような「自分の価値を高める」物だったり、自分を満足させてくれる趣味のものや、職人のこだわりの品、そんな物ばかりだ。もう、そこら辺でいつでも買える様な商品は、いくら値下げをしても売れない・・・と、そういう時代になりつつあるのだ。
 
はっきりいって、この「所有」から「利用」という世の中の流れを理解していないとビジネスをする際にも、普通に暮らしていく際にも困ったことになるだろう。逆に理解してさえいれば、かなり人生をエンジョイできるようになる、と思う。
 
例えば、昔、立派な別荘に住もうと思ったら、お金を必死にためる必要があった。頑張って、頑張って、借金してまで頑張って働いた結果、買うことができたのが別荘をはじめとした娯楽だった。でも、いまや、ホテルや旅館で設備は豪華なのに、料金はお手軽、という場所がたくさんある。もう、別荘なんか手に入れなくても、お手軽に楽しめる場所が腐るほど存在しているのだ。つまり、お金なんかなくても人生を楽しめてしまうようになったというわけ。これも、「所有」ではなく、「利用」が当たり前の時代になったからこそ、現実になったことだといえるだろう。
 
もちろん、「いや、数日だけじゃなくて、もっともっと長い間、立派な別荘に住んでいたい」という人もいるだろう。でも、そういう人も、「すでに別荘は持っているけど、年に何回かしか使わないので、手入れするだけで大変」という人の代わりに管理を引き受ける立場になれば、豪華な別荘に長い間住めてしまう。つまり、すでに持っている人から「利用する」という考え方を持っていれば、なんとでもなってしまう世の中なのだ、今の時代は。
 

ビジネスをしようと思っている人は、この流れを理解していないと間違いなく失敗する。
 
つい最近も、どこかのシンクタンクだったかが、「このまま子供が親と同居するパラサイト現象が続いていくと、家が売れなくなり、経済にとってマイナス○兆円の損害だ」というバカ丸出しの発表をしていた。これなどは「家は所有するもの」というこれまでの価値観を引きずったまま考えた結果、間違えてしまった例といえるかもしれない。
 
何度もいっているように、時代は「所有」よりも「利用」に重きが置かれるようになっている。はっきりいって、世の中の若い人はすでに、「家はすでにあるんだから、利用すればいい」と考える方が当たり前の時代となっている。だから、「いつまでもパラサイトしてんじゃねー」などと言うほうがズレているのである。識者といわれる人も含めて、世の中の人はついつい、これまでの価値観・仕組みから将来もその延長線上に物事が進むと考えがちだが、いまや突然、世の中の構造なんて変わってしまうのだ(パラダイムシフト)。
 
「このまま子供が親と同居するパラサイト現象が続いていくと、家が売れなくなり、経済にとってマイナス○兆円の損害だ」などといっていては、「いまさら何言ってんの?」といわれても仕方がない、ということになるだろう。自立してない、だとかいろいろ文句をつける人は実は、「所有する」ことが当たり前の時代を生きてきたから、そう考えているだけで、「利用する」方が当たり前の時代に育った人にとっては、ピンとこないのだ。
 

「物を所有してもらう」という考え方のまま、物事を進めていても、これからはちっともうまくいかなくなる可能性が高い。これからは「利用してもらう」という考え方を重視してビジネスもマーケティングも実行していう必要がある。
 
オークションやリサイクルも一時的に所有した物を他の人に渡す、という点ではある意味、「利用権」を買ったといえる。サービス業は他人の時間を「利用する権利」を買う行為ともいえなくもない。と、いう風に考えると、「利用」という考え方は非常に広くなってしまうのだが、とにかく、時代は「所有」から「利用」の方向に進むことはあっても、当面、戻ることはない。これらを踏まえた上で、物事は実行していく必要があるだろう。
 
(今日の一言)
役所の人間が「お上」としてデカイ態度をとることができるのは、税金を使う権限、つまり「利用権」をもっているからである。昔の銀行員も同じ。他人から預かったお金をどのように利用するか決める権限を持っていたために、お金を借りに来た人に大きな態度で挑むことができたのだ。(というか、今も?)
 
(今日の一言2)
最近、不倫や浮気をする人が非常に増えているが、これも夫(または妻)を所有する(少なくとも他の人に手を出させない)ものという考え方が崩れ、利用する(?)ものという考え方に、変わりつつあるからかもしれない。

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